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バイオプラスチック

バイオプラスチック。

次世代の代替プラスチックとして報道などで耳にする機会が増えていますね。

 

ゴミの海を泳ぐウミガメの写真とともに従来のプラスチックの問題点を指摘し、バイオプラスチックへの転換を促す記事を読んだことのあるかたもいらっしゃると思います。

でもバイオプラスチックってなんですか?と聞かれれば、詳しくは知らないという方も少なくないのはないでしょうか?

 

改めて「バイオプラスチック」とは何か? その特長と課題は?

 

簡単にまとめてみました。 

「バイオプラスチック」とは何か?

  

20世紀に発明されたプラスチックはその軽さ、加工の容易さ、そして耐久性から瞬く間に世界中に普及し、人々の生活を支える欠かせない素材となりました。

しかしその優れた耐久性と急速な普及は新たな環境問題の引き金ともなってしまいました。

 

・自然環境では容易に分解されないため、漂流物として長期間海洋を漂う(海洋汚染)

・漂流中に紫外線等で分解され、生物が取り込んでしまう(マイクロプラスチック問題)

・回収して焼却しても、温暖化ガスや有毒ガスを発生する

・有限資源である化石燃料から作られる

 

これらの問題に対応するため、プラスチック代替品として開発されているのが「バイオプラスチック」です。

「バイオプラスチック」は下記のプラスチックの総称です。

 

(1)生物由来の原料を用いた「バイオマスプラスチック」 *1

(2) 微生物による分解性を持つ「生分解性プラスチック」*2

(3) 上記の特性を併せ持つもの

 

 

まず注意しておきたいのは「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」は異なる観点からの分類である、という点です。

 

”原料”に着目したのがバイオマスプラスチックです。トウモロコシやサトウキビなど生物由来の材料を用いた高分子化合物となります。生分解性を持たないものも含まれます。

 

対して生分解性という”性質”に着目したのが生分解性プラスチックで、生分解性を持つのあれば、生物でも化石燃料でも由来を問わず生分解性プラスチックに分類されます。

 

両者とも地球環境の持続可能性という目標は同じですが、そのアプローチはかなり異なります。

発想自体が異なるのでどちらが優れているといった比較はできませんが、以下にそれぞれの特性をまとめてみたいと思います。 

 

 

バイオマスプラスチック

先述の通り、生物由来の原料を用いたプラスチックのことです。

性能は従来のプラスチックに近く、使用後も従来のプラスチックと同じように処理されます。

つまり多くは回収され、焼却されます。*3 焼却時に二酸化炭素を排出するのも同じです。

ただしバイオマスプラスチックは原料となる植物が育つ過程で二酸化炭素を吸収しています。焼却時に排出される炭素は植物が吸収した分を排出しているだけと考えることができるため、トータルでプラスマイナスゼロとなり地球温暖化防止に寄与すると言われています。(カーボンニュートラル)
また有限資源である化石燃料の節約にもなります。

 

なおバイオマスプラスチックの分類は原料の比率によって行われます。

100%バイオマス由来である「全面的バイオマス原料プラスチック」(ポリ乳酸[PLA]など)、バイオマス+化石由来の「部分的バイオマス原料プラスチック」(バイオPETなど)に大別され、日本バイオプラスチック協会の指針ではバイオマス度が25%以上のものをバイオマスプラスチックと認定しているようです。

いずれにせよライフサイクル全体を俯瞰したときに環境負荷が少なく、地球に優しいプラスチックといえます。

 

 

生分解性プラスチック

生分解性プラスチックは微生物により分解される特性を持つプラスチックです。

ただし現在の技術では自然環境では分解性能が十分に発揮できないため、使用後は分別回収して高温多湿環境(=コンポスト)やメタン発酵施設、使用環境によってはそのまま畑にすき込むなどの分解を促す処置が必要です。

 

適切な処置を取れれば微生物により速やかに分子レベルまで分解されるため、近年問題になっているプラスチックゴミによる海洋汚染やマイクロプラスチック問題への切り札としても期待されています。

 


地球のエコシステムに組み込まれ、有機物のように分解され循環されるプラスチックです。

バイオプラスチックの問題と展望

 

 

バイオプラスチックは有用な技術ですが、新しい発展途上の技術であるためいくつかの課題も抱えています。

 

ひとつはコスト。
従来品の2~5倍程度と割高です。


もうひとつは施策の実効性。

バイオマスプラスチックの説明で、原料となる植物が育つ過程で二酸化炭素を吸収するのでカーボンニュートラルであると書きましたが、実際にはバイオマスプラスチックの生産過程で二酸化炭素を排出しているためニュートラルであるとは言えないのではないかとの指摘があります。


生分解性プラスチックに関しても、先述の通り現在の技術では自然環境で十分に分解されないため利用後の回収システムや処理施設などのエコシステムを合わせて確立することが重要となりますが、分解環境を整えるために燃料を用いて高温環境を維持するなどすれば本末転倒ではないかという指摘もあります。

将来的に生分解性プラスチックのエコシステムが完成したとして、システム全体の環境負荷は依然未知数なのです。

 

 

さらに環境問題そのものが持つ難しさがあります。

 

環境問題は疑いようもなく地球上の人類共通の課題ですが、 では人類全体で目標を共有し協調して行動できるかというと残念ながらそれは別問題です。

ちょうど一昨年から今なお続くコロナ禍に見られるように、明らかに世界中で一致団結して臨むべく課題が目の前にあっても現実には様々なレベルで分断や対立が起こります。全人類的な最終目標は共有できても、いざ具体的施策について語るとき、国家や企業、そして個人も自らの利益から自由ではいられないのです。 

 

環境問題も協調の道を探りつつゆっくりと出来るだけ多くの人を巻き込みながら進むことになるのだと思います。

 

 

環境省のバイオプラスチック導入ロードマップによると、バイオプラスチックのリサイクル仕組みづくり、認証制度の運用開始が2025年と設定されています。日本で一般に普及してくるのは早くてその数年後でしょうか。 

日本国内のプラスチック投入量は年間1,000万t弱。政府は2030年までにそのうちの200万tをバイオプラスチックに置き換える目標を表明しています。

 

10年後。日本のバイオプラスチックの未来は果たして。

 

 

*1 日本バイオプラスチック協会によると、「バイオマス」とは一般に「活用できる生物由来の再生可能な勇気資源」と定義されるとのことです。

 

実際に商品に使用するためには十分な量と安定した品質が欠かせないため、トウモロコシやサトウキビ、キャッサバ、ひまし油等を原料をして作られているようなので、概ね植物由来の原料と理解しています。
*2 生分解性プラスチックは「加水分解型」と「酸化型」に大別されるが、酸化型生分解性プラスチックはマイクロプラスチックとして環境中に残ってしまう恐れが指摘され、欧米企業や日本バイオマスプラスチック協会などでは生分解性プラスチックと認めない動きが出ているようです。http://rief-jp.org/ct12/88466
*3 日本ではおよそ6割の回収プラスチックがサーマルリカバリー(熱エネルギーリサイクル)されます。