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バイオプラスチックと履物

靴は多くの部品を使用する機能性商品ですが、とりわけ靴底は全体重を支えつつ運動をサポートする重要な役目が求められるため、性能向上を目指して多種多様の素材が用いられてきました。

黎明期のサンダルはイグサなどの草、その後長らく革底時代が続きましたが、19世紀に入ってアメリカでグッドイヤーがゴムの加硫法を確立するとゴム底へのシフトが起こり、耐久性だけでなく軽量かつクッション性に優れた底材の開発競争が始まりました。
現在においても軽量かつ高耐久、そしてより快適な履き心地をもとめて新しい素材が開発されています。

近年ではウーフォスに代表されるリカバリーサンダルがその優れた履き心地を武器に新しい分野を開拓しました。

 

しかし軽量かつ耐久性に優れているという特性はゴミとなったときにそのまま厄介な問題を引き起こします。

投棄されたサンダルや靴はいつまでも分解されないまま自然界に残ることになってしまうのです。さらに一部は海中に流出し、漂着した靴やサンダルは日本の海洋漂着ゴミの第9位、全体の1.2%を占めるまでになってしまいました。*1

このような多量のゴミは景観だけではなく生態系への悪影響が懸念されます。

 

 

 

こうした事態に対して靴メーカー各社が打ち出している対策の一つが「バイオプラスチックシューズ」の開発です。

 

先日の記事に書きましたが、バイオプラスチックは既存プラスチックの環境負荷軽減を目的に開発されている新しいプラスチックで、生物由来の素材で作るバイオマスプラスチックと微生物により分解される生分解性プラスチックの2種類があります。

 

ゴミ削減という観点からみれば生分解性、海洋分解性プラスチックへの転換が理想的なのでしょうが、分解性が高いものはどうしても壊れやすく、靴底が求める高い耐久性などの高機能と両立させるのは容易ではないようです。

アディダスなどの大手を始め環境意識の高いメーカー各社が生分解性シューズを開発・発表してはいますが普及にはまだ遠いのが現実です。

また実際のところ、製品だけできても使用後に回収しコンポストなど分解環境で処理するという社会システム全体が確立していない限りは環境負荷軽減の実効性に乏しく、現在発表されている製品は啓蒙・アピールが目的である側面が強いのかと思います。(それはそれで意義があることだと思います)

 

上述のような実情を踏まえてか、環境庁はバイオプラスチック導入ロードマップにおいて、履物には生分解性プラスチックではなくバイオマスプラスチックの使用を推奨しています。

既存の社会システムのうえで環境負荷軽減効果が期待できる現実的な選択肢なのだと思います。

 

 

持続可能性を標榜する現代社会、履物の開発にも機能性、快適性のみならず、環境への配慮も求められてくるのは必然と思いますが、それはどのようなバランスとなるのか、製品としてどのように具現化するのか。

 

未だ先行き不透明ではありますが、バイオプラスチックとその発展が鍵を握るのは間違いなさそうです。

 

 

 *1 『海洋ごみ実態把握調査 (平成22~令和元年度) のとりまとめについて』環境省水・大気環境局水環境課海洋環境室