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物流における2023年問題、2024年問題の影響は?

そもそも2023年問題、2024年問題とは?


 

物流における2023年問題および2024年問題とは、それぞれ4月に下記施策が施行されることによって企業にとって必要な輸送力が確保しづらくなるかもしれないという問題を指します。

 

<2023年4月より施行>
中小企業を対象に月60時間超の割増賃金率を現行の25%から50%に引き上げ。

 

大企業先行で既に行われている施策を中小企業に拡大するものですが、中小企業比率は99.9%と言われるトラック運送業界においては大きなインパクトとなる可能性があります。

 

<2024年4月より施行>
自動車運転の業務を対象に年間960時間の時間外労働時間の上限を設定。

 

トラックだけでなくバスやタクシーなどの運転業務に従事する労働者を対象。

 

双方とも運送業、特にドライバーの労働環境改善に寄与するものと考えられますが、反面、負担上昇に耐えられない企業の撤退や、労働時間制約によってドライバー不足が加速するのではないかとの危惧されています。

 

トラックドライバーの労働環境は?


実際に物流ドライバーの労働環境はどのような状況なのでしょうか?

日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2022」 によると以下のような数字となっています。

 

<年間所得額>

全産業平均所得額 : 489万円

大型トラック : 463万円

中小型トラック: 431万円

 

<年間労働時間>

全産業平均 : 2,112時間

大型トラック : 2,544時間
中小型トラック : 2,484時間

<時間あたりの所得額>

全産業平均 : 2,315円
大型トラック : 1,694円

中小型トラック : 1,735円

 

時間あたりの所得額は全産業平均より23~25%ほど少なくなっており、夜間走行や長時間の待機、手荷役といった重労働があることを考え合わせると若者にとって魅力的な仕事とは言い難く、新規就労者の獲得が難しくなっているであろうことは想像に難くありません。

 

インターネットの普及によるネット販売の増加や近年のOMO戦略による店舗のショールーム化などにより物流の重要性はますます高まっていますが、運送従事者の待遇は必ずしも伴っていないと言えそうです。

どう変わる?


運送業はヒトがモノを運ぶという典型的な労働集約型産業であるためドライバーの増加は運搬能力に直結しますが、今回の施策がどの程度の効果を発揮するかは未知数です。

そもそも少子高齢化で労働人口が減少傾向にあるうえに、多くの荷主にとって物流は「コスト」という意識が強く、常に値下げ圧力に晒されてきた実態があるからです。

 

 

日本ロジスティクスシステム協会の会員向けアンケートによると、物流に対する自社の課題として「コスト削減」を挙げた企業は実に60.67%、堂々の1位となっています。

ちなみに上記アンケートの第2位が「ドライバー不足への対応」で31.33%、第3位が「人材の育成」で30.67%、第4位が「物流品質管理」で28.67%です。

「コスト削減」が、「ドライバー確保」や「品質管理」のダブルスコアとなっている現実は現状改善への多くの困難を予見させます。
*経済産業省「物流危機とフィジカルインターネット」(令和3年10月)より
*日本ロジスティックシステム協会「ロジスティクスやサプライチェーンマネジメント(SCM)をする上での自社の課題」

 

 

 

上述のような当事者意識や、物流が公益的な側面もあるインフラ業であることを踏まえると急激な変化は起こりづらいかもしれません。

しかし、業種や業界により温度差が出ることも考えられ、例えばドレージに先行して国内物流の雇用環境が好転した場合を考えてみると、海コンドライバーが減少し業者は収益改善のため既に起こっている20フィートコンテナの40フィート同額への値上げなどの施策を加速することが考えられます。そうなれば折からの値上げラッシュで疲弊している企業や家計へのダメージも小さくないでしょう。

 

 

 

いずれにせよ物流は経済の動脈であり、今後もますますその重要性を高めていくと思います。中長期的な改善や改革の流れが止まることはないでしょう。
世界的にも労働環境改善の動きに加えて、労働集約型産業である物流そのものの体質を改善しようという機運も高まっています。

スリットコンテナや自動パレタイズシステムなどによる手荷役の省力化、フィジカルインターネットの構築による業界全体の再定義、自動運転による無人化など、新しいテクノロジーが物流を大きく変えていくかもしれません。